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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)5864号 判決 1968年7月15日

原告 川村商事株式会社

右訴訟代理人弁護士 浅川秀三

被告 株式会社平和相互銀行

右訴訟代理人弁護士 小林宏也

同 永井津好

同 川瀬仁司

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、訴外黒田木材が昭和三九年一一月倒産したこと、その後である同年一二月八日訴外黒田木材と被告間に本件契約がなされ、翌九日本件登記がなされたことは当事者間に争いがなく、且つ、証人黒田武守の供述によると訴外黒田木材が不渡手形を出したのは同年一一月一一日、倒産したのは同月一四日と認められる。

二、原告は本件契約は債権者を害する行為であるとし、その取消を求めるが、以下述べるように本件契約は債権者を害する行為とはいえない。

(一)、前記のように訴外黒田木材は昭和三九年一一月一四日倒産したが<証拠>を綜合すると、訴外黒田木材は右倒産時において原告に対する債務も含めて約一億円の債務を負っていたが、その有する売掛代金債権は回収不能のもので、また本件外土地を所有しているがこれには借地権が附着しており、更地価額にしても約八〇〇万円のものであるのに訴外新旭川株式会社の抵当権が設定され、同会社は訴外黒田木材に対し約八、〇〇〇万円の債権を有していたことが認められ、これに反し、且つこれを覆えすに足りる証拠は存しない。そして右認定によれば原告主張のように右売掛代金債権も本件外土地も訴外黒田木材の債権財産として評価計上しうるものではなかったといわねばならない。けだし右売掛代金債権は実価を有しないし、抵当権者によりその全交換価値を支配されている本件外土地も一般債権者に対する債務の引当となる可能性を欠いているからである。

(二)、処で債務者がなした行為が民法第四二四条に規定する取消権の対象となる行為、すなわち債権者を害する行為に該当するためには、右取消権がもともと一般債権者の債権を保全するため、その共同担保となるべき債務者の一般財産を確保することを目的とするものである以上、当該債務者の行為により債務者の一般財産状態が悪化し、無資力化、少くとも債務超過になりそのため債権者の債務者から弁済を受ける可能性が消滅、少くとも減少するという事態が発生するという前提が充足されねばならない。

そして、このような事態の発生は、債務者の当該行為の前と後の一般財産状態を比較することにより判断可能となるが、これを訴外黒田木材について考えてみると、訴外黒田木材がその倒産時において債務約一億円(充も本件外土地に抵当権を有する前記新旭川株式会社に対する債務及び、後記のように本件土地に抵当権を有する山源興業株式会社に対する債務はこれらのものが優先弁済を受けうる立場にある以上、訴外黒田木材の一般財産の変動を判断する場面においては、各土地の価額を限度に控除されるべきではある。)を負い、積極財産として評価しうるものとしてはみるべきものが存しなかった(本件土地をいかにみるかについては後記のとおりである)こと前記のとおりであるから、右倒産時に極めて近接する昭和三九年一二月八日、本件契約がなされる直前のその財産状態も右倒産時のそれとほぼ同じであったと推認される。

(三)、原告は右のような訴外黒田木材の財産状態を前提とし、且つ本件土地を唯一の積極財産とみてこれにつき本件契約がなされることにより訴外黒田木材の財産状態はより悪化し、無資力化したと考えているようである。然し、<証拠>によると、本件土地には訴外黒田木材倒産以前より訴外山源興業株式会社の債権六、二九五、三五〇円、訴外深川信用金庫の債権二五〇万円を担保するため抵当権が設定され、その旨の登記がなされており、倒産当時訴外深川信用金庫の債権は消滅していたが、訴外山源興業株式会社の債権は当時以降現在でも一五〇万円残存していること、また、本件土地の面積は公簿面積一四八・七六平方米(一畝一五歩)であり(実測面積がこれより大であると認めるに足りる証拠は存しない)その価額は倒産時(およびこれに近接する本件契約時)において三・三平方米当り約三万円、その総価額約一三五万円であったことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠は存しない。

そうすると前記のように本件外土地を積極財産として評価計上しなかったと同じ理由により、本件契約当時訴外山源興業株式会社が前記認定のとおりその全交換価値を支配している本件土地ももともと積極財産として評価しえないものであったのであるから、これにつき本件契約がなされてもその前と後における訴外黒田木材の一般財産状態には変動はなく、従ってもとより訴外黒田木材の財産状態のより悪化、弁済可能性の減少、消滅という事態の発生はなく、債務者の行為が債権者を害する行為たるべき前記前提はここには欠けているものといわざるをえない。

三、以上述べたようにもともと一般債権者に対する債務の引当となるべき積極財産性を有しない本件土地につきなされた本件契約は債権者を害する行為とはいえないから、他の要件などの存否について判断するまでもなく、これの取消を求める原告の請求は失当なものとして棄却する<以下省略>。

(裁判官 上杉晴一郎)

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